連作の手引き

この手引は、連作を編むのがともすれば初めてな高校生の皆さんに、連作を編むことに興味を抱いてもらうことを目的としたものです。俳句賞「25」という場以外でも、部誌などに連作形式で発表する場合があるかもしれません。あるいは連作形式で提出する他の賞に出してみたいという場合もあるかもしれません。そういったときの手助けとなるようなものとなっていると幸いです。

連作って?

広義には、句を複数並べたものと言えますし、狭義には、句を複数句並べて発表することで、一句単体で発表するときには感じ得なかった効果を狙うものと言えるでしょう。

 

皆さん、美術館に行ったことはあるでしょうか。美術館の絵や像はもちろんそれ単体としてとても価値あるものです。しかし、光の当て方やレイアウトなどの展示の仕方次第で、その作品の良さが半減してしまったり、より良いものに見えたりすることは容易に想像できると思います。あるいは、展示する絵の順番を変えるだけでも、抱く印象は大きく変わると思いませんか。例えば、写実的な風景画と抽象画を交互に並べるとかなり混沌とした印象になりますし、逆にずっと似たような風景画が続くとやや単調に感じますよね。

 

連作を編むことも似たようなものだと思います。句の並べ方や揃え方を工夫することにより、作品をより面白く読んでもらえるように考えてみてください。

工夫の例

具体的にどのような点を工夫すればよいのでしょうか。手引きとして、一般的によく工夫される点をいくつか挙げてみます。もちろんこれから挙げる観点は例ですから、その通りにしなくても全く構いません。俳句賞「25」は複数人で連作を編むという変わった形式なので、皆さんの句が最も光る句の配列や構成を、皆さんで考える機会になればと考えています。

 

①季語の配列を工夫する

 

季語を入れる有季の句を並べる場合、季節の流れを意識する必要があります。では句を並べるときにどのように並べると、どのような効果があるでしょうか。

 

一つには、季節順に並べるという方法があります。春、夏、秋、冬という順でもよいですし、秋の句を先頭にしたければ、秋、冬、春、夏という順でも構いません。先頭に置きたい句の季節に合わせて決めるとよいでしょう。また、桜の句の後に梅の句が来ると、現実の春の流れと違うなと思いませんか。実際は、多くの場合、梅が咲いてから桜が咲きますよね。ですから、春の中でも早春、仲春、晩春などに気を付けて並べることになります。このように並べると、季節の運行を作品に感じることが出来ますね。

 

もちろん季語を季節の巡りと関係なく並べることも出来ます。その場合でも、何らかの意図があってこのように並べたのだなと気付いてもらえるような工夫があるとよいですね。

 

② 全体として仮名遣いを工夫する

句の表記方法には、大まかに現代仮名遣いと歴史的仮名遣いとがあります。連作の中で揃えると、整然とした印象を与えることになりますし、逆に連作の中で仮名遣いを混在させると、混沌とした印象になるでしょう。一方、メンバーによって好きな仮名遣いが異なる場合、作者の個性を生かすために両者を混在させることもできるかもしれません。また、歴史的仮名遣いを用いる場合、少しでも不安なときは辞書を引き、正確に使用することをおすすめします。

 

③ 全体として文法を工夫する

 

文法も、大まかに文語と口語とがあります。文法も仮名遣いと同じように、連作の中で揃えると、整然とした印象を与えることになりますし、逆に連作の中で文法を混在させると、混沌とした印象になるでしょう。一方、句の内容や作者の個性に合わせて、文語と口語を使い分けるといった工夫も考えられます。文語文法に自信がないときは古典文法書を参照するとよいと思います。

 

④ 全体として語・型・技法の用い方を工夫する

 

同じ言葉が連作の中で繰り返し使われると、読者はその言葉に注目します。この手法でテーマ性を持たせることができる一方、それが意図しない中で起こってしまったことならば、語彙が狭いと思われてしまうかもしれません。編み終わったあとに、一度全体を見渡してみましょう。

 

また、型についても同じことが言えます。「~けり」の句が五句連続で並んでいたり、全体に対して半分の割合を「~かな」の句が占めていたりすると、型が少ないと思われるかもしれません。その場合は同じような型の句を離して並べたり、型のバリエーションを意図的に多様にするとよいかもしれませんね。さらに、直喩の句はなるべく離すなど、技法面でも並べ方の工夫が必要かもしれません。一方、意図的に同じ型・同じ技法を用いた句を並べることで効果を狙うことも出来ます。

 

⑤ テーマについて

 

連作の中に一貫したテーマがあると、魅力的になることがあります。複数人で持ち寄った句の中にテーマ性を見出してもよいですし、句を作る前に何らかのテーマを決めてみてもよいかもしれません。一見テーマと関係なさそうな句も、並べることでテーマとの関連が見えてくることもあります。テーマを決めるときは、チームの個性が出るようなテーマを選ぶとよいでしょう。

 

⑥ タイトルについて

 

その連作を象徴するような一句のワンフレーズをとることが多いです。季語でも構いません。上記のようにテーマを決めた場合はそのテーマをタイトルに使用してもよいでしょう。

また、表題句(タイトルのフレーズを含んだ句)を並べる場所によって連作全体の印象は変わってきます。最初/最後だけでなく、いろいろな選択肢を検討してみましょう。

実際に連作を編む前に、総合誌に掲載されている連作をぜひ見てみてください。並べ方やタイトルのつけ方の参考になるはずです。

また、過去に委員が編んでみた連作も参考にしてください。