2023年9月17日・18日の2日間、全国各地の俳句に親しむ大学生が全国学生俳句会主催のもと群馬県の湯宿温泉に集い俳句合宿を行いました。参加したのは北大俳句会「えぞりす」、東大俳句会、関西俳句会「ふらここ」、岐大俳句会、岡山大学俳句研究部、愛大俳句研究会、九州学生俳句会、慶應義塾大学俳句研究会、早稲田大学俳句研究会、新潟大学俳句・短歌会の計22人。講師に林 桂(はやし けい)先生をお招きし、俳句に対して真摯に向き合う2日間となりました。
1日目のレポートは慶應義塾大学俳句研究会の清水瞳美が執筆いたします。集合から就寝までを時系列に沿って振り返っていきます。なお、参加者の俳句は掲載許可をいただいております。
分量は2,000文字程度です。
はじめに
12:45 集合
14:00 第一句会
18:00 夕食
20:00 周辺散策
22:00 袋回し
上毛高原駅に全国各地から学生が集まる。ある人は北海道から、ある人は福岡から…。まだ緊張が解けずお互いを伺うように待機していたのをよく覚えている。
宿に到着し、ひと段落してから句会が始まる。第一句会は、事前に林桂先生の評論集『俳句・彼方への現在』から「田中裕明と長谷川櫂」「佐佐木信綱「高柳さんのこと」」の二つの章からテーマを選び、投句を行った。このようなテーマで行う句会は皆初めてだったようで、句作に苦戦したという声を多く聞いた。
“例えば、「田中裕明と長谷川櫂」では、「二人の作品を並べてみると、(中略)骨格のしっかりした俳句形式の気息に言葉を従わせながら、一方では「かすかな」 感覚 「やわらかな」 感覚に思いをこらしてゆく」といった一文があります。これを元に、骨格のしっかりした俳句形式で俳句を作るなどといった試みがひとつ例に挙げられます。また、「かすかな」「やわらかな」といった感覚を俳句にする試みもあるかと思います。
加えて、「佐佐木信綱「高柳さんのこと」」では「言葉と形式の問題」を意識し俳句を作ったり、多行に挑戦したりする試みが挙げられます。”
(俳句合宿のしおりより引用)
しおりにテーマに関してこのような説明があったことから、骨格のしっかりした俳句形式での俳句と多行の俳句が入り混じる他では見ない句会となった。ここでは一席の句と議論が盛り上がった句を幾つか紹介する。
おおかみに十指大きく秋の雪 馬場叶羽(関西俳句会「ふらここ」)
林先生も特選を入れての一席。「に」という助詞の使い方が非常に上手いとのご講評。おおかみ「の」十指、と言うよりもおおかみ「に」十指、と言うことでおおかみの身体から指への連続性やしっかりとした存在感が感じられる。季語の秋の雪に関しても上五中七を引き立てる絶妙な選択だと言える。
まなうらの
螺旋階段
地に
林檎 日向美菜(関西俳句会「ふらここ」)
今回の句会の特色である多行俳句から一句紹介したい。ここでは技術力の問題で縦に表記できず、分かりづらいが林檎という文字が他の文字より下に配置されている。まさに地に落ちた林檎を視覚的にも表現しているのだ。林先生のご講評では「地に」も下に配置し、天と地のような表現をしたらどうかという意見をいただいた。多行俳句は殆どの参加者が初めての挑戦だったため議論を含め良い刺激になったと思っている。
玉蜀黍/格子/玉蜀黍/格子 岸快晴(岐大俳句会)
1番の問題作(?)のこの句も取り上げておきたい。もちろん文字の間のスラッシュは意図的なものである。玉蜀黍の粒が規則正しく並んでいる、その様子をクローズアップし俳句として完成させた。この句は私たちに新たな俳句表現の可能性を示すとともに、議論を通し率直な意見をかわすことで私たちの仲を深めた。今回の句会を語る上で欠かすことのできない一句となった。
句会の様子。オンライン参加もあるハイブリッドな句会。活発に意見交換を行なった。
句会を終え、待ちに待った夕食。鮎の塩焼きやうどん、デザートの葡萄など数々の秋の味覚を味わった。地元の方からの差し入れでおやきや地酒、玉蜀黍も頂き、ここでしかできない俳句トークに花が咲いた。
差し入れの玉蜀黍。玉蜀黍/格子/玉蜀黍/格子だ!!と声が上がった。
夕食後は自由時間となっていたが、結果皆で牧水が宿泊したとされる部屋を見学することとなった。部屋は急な階段を上がったところにあり、こぢんまりとしていながらかつての雰囲気がそのままに残されていた。部屋には自由に書くことのできるノートがあり、各自訪れた証として名前を筆でしたためていた。
書き込んだノート。歴史を刻んだ。
風呂を済ませた者から、昼間句会をした広間にまた続々と集まる。夜も更けてきたがこれからが本番だと言わんばかりの猛者の提案で袋回しが始まったためである。
袋回しの説明を簡単にしておくと、お題の書かれた袋が回ってくるのでそれに制限時間内にできるだけたくさんの句を短冊に書いて入れ、これを繰り返すというものである。
紹介は省略させていただくが、この袋回しでも名句が数多く生み出され、かつ迷句も数多く誕生した。酔いや眠気でだんだん回らなくなる頭と闘いながら深夜2時までこの袋回しは続いた。
袋回しの様子。これはまだ序盤。