全国学生俳句会合宿2023レポート

2日目(9月18日(月))執筆:東郷寿日太(慶大俳句)


はじめに

この記事は1日目の続きです!

2日目は、慶應義塾大学俳句研究会の東郷寿日太が執筆いたします。

東郷の主観的な回想が多めです。

なお、参加者の俳句は掲載許可済みでございます。

文量は3,500文字程度です。


目次

はじめに

6:45   起床、湯本館裏手の山を散策 ヒルあらわる

9:15   河辺を散策 アユ釣りのおじさん

10:30 たくみの里 ­–栗の遠投対決

14:00 句会

おわりに

朝の湯宿温泉、宿の裏山から。

晴れてよかった。


6:45 起床、湯本館裏手の山を散策 –ヒルあらわる

前日、2時半まで袋回しをしていた私たち。ところが、早稲田大学俳句研究会の森田雪虚さんが明朝早起きして散歩すると聞く。折角なので私も頑張って起き、同行することにした。

朝の湯宿温泉はさすが、空気が清々しい。4時間に満たない睡眠の眠気を覚ましてくれる。どうやら宿の裏手の山に滝があるらしく、それを目標に坂道を登りだした。しかし道は思ったより急で、手入れも十分でない。尺取虫のように身を屈めても薮に掛かってしまうところもある。旅の2日目は、早朝から冒険の様相を呈してきた。

キヌガサタケの殻を見つけた。

ぎりぎり自慢にならないレア度か。

起きぬけの身体が汗ばむのを感じながら進むと急に視野が拓け、広場に着いた。薬師堂と忠霊塔、それに句碑を発見した。

 

 霜枯れや骨身を通す温泉の匂ひ 長翠

 

前日の湯の熱さがひりひりと思い出される。

さて水の音は聞こえるも、規制で先に進めず滝見は諦めた。広場を一周し、東屋に腰掛けようとしたその時である。

 

 ヒルが雪虚さん目がけて落下してきた!

 

小ぶりだったが、うねるその姿は紛れもない吸血虫。雪虚、これを何とか振り解く。ぎりぎり噛まれずに済んだが、危うく医者の世話になるところだった。朝食の時間が迫ってきたのもあり、我々は宿に逃げ帰ることにした。

宿の前で、林先生と鉢合う。先生に言われてふと足元を見ると、小冒険の勲章か、靴紐にヤブジラミが沢山ひっついていた。

かなり剥がしてもこのざま。

のちに林先生に詠まれることになる…。 


9:15 河辺を散策 –アユ釣りのおじさん

宿を出たのち移動のバスまで時間があったので、今度は川沿いを歩くことにした。太陽がぐんぐんと昇ってきて照りつけてくる。都会を思い出してしまう暑さを嘆きつつ、それでも吹き抜ける風は気分を爽やかにしてくれた。

しばらく散策していると、8メートルはあろうかという真紅の釣竿を掲げるおじさんを見つけた。川に針を垂らしては、くるくると手繰り寄せている。そういえば前日も同様の光景を皆が見かけ、一体何を釣っているのかと話題になっていた。どうしても気になった私は、思いきって話しかけてみた。

アユ釣りのいた川。水に触れれば、丁度良い冷たさ。

おじさんは快く応じてくださった。釣っているのはアユだった。アユの活動時間は人間と同じ日中で、ちょうどこの時間くらいから動きだす。それで寝ぼけまなこのアユを狙っていたようだ。釣竿はなんと15万円もする代物だが、これでも標準的な値段らしく仰天した。他にもアユの生態やこの近くのことなど、短い時間だったが色々と教えていただいた。

やはり旅の醍醐味は、人との出会いにあるな…。そう感じていると、句が浮かんできた。

 

 隅に        あかり

 

  人の眠りの

 

          鮎に似て  東郷寿日太(慶應義塾大学俳句研究会)

 

1日目の記事で清水さんが紹介してくれた多行俳句に、今日も挑んでみた。句会では「隅に」等の言葉の配置を評価いただき、お二方から特選をいただけた。これは嬉しかった。技術上縦書きでお見せできないのが悔しいところである。


10:30 たくみの里 –栗の遠投対決

バスに乗って向かったのは「たくみの里」。様々な体験工房が立ち並ぶ「里山のテーマパーク」だ。工房を覗きたいのもやまやまだが、それは次回のお楽しみ。今回の目的地はその周辺にある。まずは、須川ハリストス正教会のパンテレイモン聖堂を見学させていただいた。ここでは一面のイコンや壁画の荘厳さに飲みこまれた。正直、凄すぎて言葉が出なかった。いまも言葉に起こせないので、この辺りの記述は他の参加者に譲ることにする。

そこからたくみの里関係者の車に乗せていただき、里はずれの散策道「初越のこみち」へ。着くと、近辺にお住まいのご家族と、オカリナ奏者の方が出迎えてくださった。お茶とお菓子まで用意していただき、青空演奏会がはじまった。甘酸っぱい鬼灯とふわふわのお焼きをいただきながら、山腹を吹き渡る風を肌に感じながら、どこか懐かしい音色を聞く。素晴らしいひとときだった。*1

初越のこみちでの吟行風景。

初越のこみちは季語の宝庫だ。アザミ、キクイモ、ワレモコウ…草花の顔と名前を覚えながら歩いていると、いかにも秋という感じで栗の実が落ちていた。手ごろなサイズだ。拾って手の中で転がしていると、にわかに人が寄ってくる。そのうちの一人がこう言い出した。

 

 「投げてみますか…?」

 

ふと脇を見ると、畑の跡地が開けている。…これは、栗を投げてみたくなる。否、投げなければならない。ふだんは絶対に出来ないことだから。

ということで、私含めて三人で栗の遠投対決を大いに楽しんだ。そして案の定、俳句の種になった。

 

 花撮りて栗は遠くに投ぐあそび 山城光生(東大俳句会)

 

句会では「花撮りて」と「栗投げ」が同居する面白さや「あそび」の軽やかさが高い評価を受けていた。〈吟行句らしい〉にとどまらない良さがあると思う。

栗。投げたくなるサイズ。


14:00 句会

初越のこみちに後ろ髪を引かれつつも「遊神館」に移動。昼食はナマズの唐揚げをむしゃむしゃ食べて元気をつけたら、いよいよ集大成の第二句会だ。吟行句5句出しで行われた。司会になったので読み上げと進行を頑張った。既に何句か取り上げたが、個人的に勉強になった句をいくつかご紹介する。

句会の風景を撮り損ねてしまったので、直前の選句風景を。雰囲気だけでもどうぞ。

 

 水の秋輪のまま外す腕時計 武田歩(関西俳句会「ふらここ」)

 

圧倒的な支持を得ての一席。私も特選を入れた。まず、腕時計を外すという何気ない動作を「輪のまま」とカタチ的に叙述したことで目新しさが生まれる。またこれは同時に、腕時計を外すであろう場面とその解放感を想像させる。そして季語「水の秋」がさまざまな水の姿を想起させるとともに、全体を包容している。音感も良く納得の秀句であった。

この句を読んで、何も吟行地のことだけを詠むだけが吟行ではないと思った。むしろ吟行で出会うものごとを契機として、そこから呼び覚まされる感覚を大事にしたい。

 

 手になじむ酒まんじゅうや葛の花 日向美菜(関西俳句会「ふらここ」)

 

昼食時に先生が差し入れてくださった酒饅頭から即席の一句。肌感覚からはじまるところからこの句は手堅い。「葛の花」の取り合わせもやっつけ感がなく、景や印象をしっかりと広げている。平仮名のやわらかな使い方や“z”音を散りばめるリズムも効果的だ。

先程のようなことを言っておいてだが、その場を詠み込む瞬発力も吟行では大事だ。初日夜の袋回しではそれを大変痛感した。

 

 重要指名手配犯ポスター重なり貼りや月の宿 南幸佑(東大俳句会)

 

吟行句会は同行者ならではの視点(あるいは、そこから飛ばした発想)も味わえるのが楽しい。例えばこのように指名手配のポスターでも句は詠めると発見できる。さて隠す気のない字余りだが、句の言葉と内容の両方の厚みに十分合っているどころか、最上の形がこれだという説得力すらある。それでいて切れ字の後の季語も健在で、句の舞台とその陰影を立ち上がらせている。字余りでは虚子の一句が有名だが、林先生がこの句の方が好きだと仰っており、参加者も多くが賛同していた。


こうして句会は大団円のうちに幕を閉じた。

間も無く、皆は各々の場所へと帰っていった。*2

非常に充実した二日間だった。


おわりに

前後半にわたった合宿レポート、いかがだっただろうか。

林先生も近いことを仰っていたが、この旅は所謂「伝説の回」になる予感がある。

まず、全国の仲間たちとはじめて吟行ができた。われわれ大学生は、コロナ禍でとても苦労した。各々の困難を乗り越え、出会えた喜びはひとしおだった。俳句は勿論、数多くの思い出を作ることができ、とても楽しかった!

それだけではない。今回の旅は地域の方々との縁の賜り物だった。皆様には企画から多くのご協力をいただき、学生だけではできない経験を沢山させていただいた。また皆様とのお話しを通して地域のことを知り、普段よりも充実した吟行ができた。結果、合宿が俳句特訓以上の深みを持ったものになった。これは大きい成果だと思う。

さて、その参加者の方々とは先日オンラインで再びお会いし、林先生から頂いた句集の読書会をした。その次の句会も企画されており、縁は紡がれはじめている。

この記事をご覧になっているのは高校生や大学生が多いと思う。そこで、これだけはお伝えしたい。

 

 貴方はひとりではない。必ず仲間がいる。

 

この縁が将来まで繋がってほしいし、繋げていきたい。そのために俳句賞「25」としても、個人としてもできる限りをしていきたいと、改めて決意した。

最後に、ご指導とたくさんの差し入れを賜りました林先生、何から何まで大変お世話になりました地域の皆様、そして旅を共にしてくれた俳友に改めて感謝申し上げます。

ありがとうございました。

 

慶應義塾大学俳句研究会

東郷寿日太


集合写真。また、どこかで、必ず。

*1 大変個人的な感想だが、まさか山口百恵「秋桜」をここで聴けるとは思わず、感動で震えた。

*2 その後、私を含めた在来線帰宅組は列車が鉄橋にて鹿に衝突してしまう。急流の真上で40分立ち往生し、最後まで思い出たっぷりの旅となった。