テーマ決定

誰の一言から始まったのでしょうか。新企画を話し合う会議の中で、「自分たちでも編んでみよう」という意見が出ました。高校生の応募者の苦労を知る貴重な機会になるとともに、学年も大学も異なるこの8名での連作に単純に心躍りました。(身内を褒めるのは気が引けますが、名実共にある豪華なメンツです。)しかし私たちは25句連作にあたって初心者です。どうか手順や議論を鵜呑みにすることなく、しかしどこかに隠れているかもしれないヒントを探しつつお楽しみいただければ幸いです。

 

去る2018年11月17日にテーマ候補をまとめ、LINEのノート機能を使って投票することにしました。
①仏(寺)25句
②結婚25句(プロポーズ→…)
③OL25句(起床→出社→就寝)
④港町25句
⑤海外詠25句
⑥世界史25句

やってみたいテーマを複数選択可とした結果、③5票、④2票、⑤2票、①1票となり、③のOL25句に決まりました。しかし私たちのなかには誰もOL経験者はいません。しかも8人中5名は男子。さあ8名はどうこの困難を乗り切り句を作るのでしょうか…!

句作・整理

 ①起床~出社②日中③退社~夜、の3つに分け、それぞれ2、3句冬の季語にしぼって提出することにしました。OLの気持ちが分からないという至極当然の悩みを感じつつ、一人暮らしの経験を生かすなどして、11月23日~12月12日の計20日間各々句作に励みました。連作の材料となるので、しっかりと句作期間を設けることは大切だと思います。

四苦八苦する中、計63句が集まりました。しかしいざ提出句を前にすると、どうまとめるか悩ましい…。全ての句に通し番号をつけて、季節と区分を振りました。委員のテーマは『OLの「一日」』だったので、一日の間に季節の統一が必要でした。例えば山茶花(初冬・植物)をいれると、仲や晩の季語は使いづらくなりました。

この日の天気は?
1 御守を雪に濡らせる折鞄(三・天文)
2 スヌーズの多い生涯或る日雪
3 我はOLふるさとは雪の頃
4 裏アカや雪降ることも暴言も
5 朝から雨で冬のパジャマはGAPかな(三・時候)
6 恋人に毎朝電話だるけれ冬の雲(三・天文)
冬の虹ポーチに仕舞ふ充電器(三・天文)

 

この日は初?仲?晩?
7 十二月メロンパン売る車来て(仲・時候)
8 もの言うて師走朔日過ぎゐたり(仲晩・時候)
9 菓子折りに花柄のある師走かな(仲晩・時候)
10 化粧水うつすら匂ふ師走かな
11 コピー機に紙の詰まるや一葉忌(初・行事)

果物!
12 片側に林檎の見える起床かな(秋とすると晩・植物/冬とすると三・植物)
13 困ったら足首回す蜜柑むく(三・植物)
14 ぽんかんを剥いて濡手となりゐたり(三・植物)
15 蜜柑来ぬかくもまづしき住所にも(三・植物)
16 靴下の冷えてゐたるやバナナ柄(仲秋・生活)

山茶花!
17 働くや山茶花の咲く屋上に(初・植物)
18 山茶花の家に脱ぎたる常の靴
19 我臥せり月燦々と山茶花は

ポインセチア!
20 残業やポインセチアを見遣りつつ(仲・植物)
21 拗ねていてポインセチアと部屋にいる
22 一夜さに充電了りポインセチア

マスク!
23 マスクの箱にマスク捨つるを常として(三・生活)
24 マスクとる日の匂ひせる事務机
25 こんなにもマスクを持つてゐる女
26 イヤリングマスクイヤホン耳たわわ

起床~出発
2・4・5
27 冬の朝床より拾う抱き枕(三・時候)
28 夢の続きを犬に託して樹氷林(晩・天文)
29 サニーサイドアップ冬鷗近き部屋(三・動物)
30 風邪心地ゆふべの残り物温め(三・生活)
31 昨日の雨の匂ひのコート着る(三・生活)
32 外套の存外赤き鏡かな(三・生活)

通勤
33 吊革は生木の白さ冬来る(初・時候)
34 討入の日の新宿をピンヒール(仲・行事)

オフィス
10・12・16
35 後輩の敬語緩みて冬麗(仲晩・天文)
36 コピー機のたしかな微熱雪催(三・天文)
37 人生に踊場欲しく冬薔薇(三・植物)
38 キーボードにも聖樹にもうすぼこり(仲・行事)
39 秘書ひとり聖樹を飾る亭午かな
40 冬の蝿靴をぶらぶらして飛ばず(三・動物)

退社
41 マフラーでただなんとなく港まで(三・生活)
42 一人褒め二人叱りし日の海鼠(三・動物)
43 ラグビーの横を通って家路なり(三・生活)
44 釣銭のよわき光や年忘(仲・生活)
45 貂走る指より鍵の暖かし(三・動物)

家で夜
46 湯ざめして夜のアパートといふ孤島(三・生活)
47 猫よりも重たき湯婆抱きけり(三・生活)
48 湯気立てて明日も六時に起きなければ(三・生活)
49 凧や独り居は火を使はざる(初・天文)
50 凩に箒も買はず暮しをり
51 胼薬厨に卓にひとつづつ(三・生活)
52 まいにち爪伸びる不思議や風は冬(三・時候)

53 室咲のまへを人々生き急ぐ(三・植物)
54 はつふゆやひねもす涸れぬ中国茶(初・時候)
55 顔見世の人出を分けてゆきにけり(仲・生活)
56 暖房や艶をうつろにモンステラ(三・生活)
57 暖房を切つて静かな部屋なりけり
58 同棲の日々をことばが冬めくよ(初・時候)
59 飲み口のうすく冷えたる生姜酒(三・生活)
60 鍋焼きの鍋に見ている故郷かな(三・生活)
61 コンセント余ってをらず年忘れ
62 液晶が鏡なす夜を悴めり(晩・生活)
63 手袋を脱がねば読めぬ書状かな(新年・生活)

完成

絶対入れたい俳句をまず入れて、どんどん付け足しました。その後季節を晩冬に変更、正字への修正、旧仮名遣いへの統一させました。最後にいよいよタイトルを決めです。委員にアンケートを取った結果…ばらけました。

①OLの一日
②スヌーズ…1票
③踊場
④メロンパン
⑤ただなんとなく…2票
⑥まづしき住所…2票
⑦静かな部屋
⑧明日も六時…1票
⑨玲子…1票
⑩OFFICE LADY…3票

2019年1月6日にTwitterのアンケート機能で投票してもらいました。計4票(失笑…)の投票をいただき、OFFICE LADYに決まりました!

 

OFFICE LADY

 

スヌーズの多い生涯或る日雪
まいにち爪伸びる不思議や風は冬
冬の朝床より拾ふ抱き枕
夢の続きを犬に託して樹氷林
風邪心地ゆふべの残り物温め
昨日の雨の匂ひのコート着る
吊革は生木の白さ冬の海
御守を雪に濡らせる折鞄
マスクとる日の匂ひせる事務机
キーボードにも聖樹にもうすぼこり
北風やひねもす涸れぬ中国茶
ぽんかんを剝いて濡手となりゐたり
人生に踊場欲しく冬薔薇
くさめこらへてコピー機にたしかな微熱
顔見世の人出を分けてゆきにけり
十二月メロンパン売る車来て
マフラーでただなんとなく港まで
冬の蠅靴をぶらぶらして飛ばず
一人褒め二人叱りし日の海鼠
貂走る指より鍵の暖かし
蜜柑来ぬかくもまづしき住所にも
腁薬厨に卓にひとつづつ
バナナ柄なる靴下の冷たさよ
暖房を切つて静かな部屋なりけり
湯気立てて明日も六時に起きなければ

やってみましたを終えて

最後に委員全員からのメッセージです。

テーマを決めて(しかもOLというある意味でのフィクション)句を作ると、普段ならば作らないような句が自分の中から出てくることに気付きました。ご応募の皆さんに取っても、チームメイトとのコラボレーションが、自己更新のきっかけになれば嬉しいです!小山玄黙  

知り合いのOLのTwitterを種にして詠みました。自分の俳句的美意識だと普段はOLなんて詠まないので、合作という作業がもたらすものをまざまざと見せられた思いがします。堀下翔  

おそらく連作と聞いて、その形式の違いはあれど、結局一句一句と向き合うことが常ではないかと思います。(僕自身不識ではあるのですが)上記の連作が良くも悪くも皆さんの手助けとなれたら、、、。菊池海成

高校生の皆さんがいかに苦心して取り組んでいるかが理解できました。チームで句を持ち寄って連作を編み終えた、すがすがしい気持ちよさ。この気持ちよさを高校生にも味わってみてほしいです。木村杏香 

「俳句賞25」の形式で句を編みあうのははじめてで、とてもいい経験ができました。確かに全体のバランスに気を配らなければならないなど難しさもひとしおでしたが、それよりも楽しんでOLになりきることができました!高校生の皆さんも、テーマ決めなどから案を持ち寄ってわいわいとやるのも醍醐味かもしれませんね。岩田奎

とても楽しかったです。本当は作り足したりした方がよいのでしょうが、やってみました企画ですのでご容赦ください。応募する高校生の皆さんの参考に、あるいは反面教師になれたかなぁと思います。単純に読み物としてでも面白い企画だと思うので是非。中矢温

ぼくは言われたことはリマインドされるまでやらなかったので、ごめんなさい。誰かまとめ役の人がいる場合は、 ぜひ積極的に協力してあげてください。柳元佑太

ひとつのテーマに向けて共同で連作を作り上げていくのはとても新鮮で面白かったです。それぞれの作風や時系列を考えつつ並べる作業が実は一番大変なのではないかと思いました。雪吉千春

(文責中矢)